配送証明は三箱目の隙間に

──平成0x29A年03月30日 22:10

俺の積んだ軽バンが、旧川越エリアの配送センターを出たのは二十二時過ぎだった。

荷台には三箱。一箱目は町内会の防災用3Dプリント部品、二箱目は誰かの趣味らしいフィルム写真の現像セット、三箱目は中身不明の精密機器。全部、今夜中に届けろとシステムが言ってる。

助手席には叔父さんのエージェントが座ってる。

「隆、この時間はドローンが五分ごとに巡回してるぞ。スピード出すなよ」

叔父さんは生前、この辺の配送を十年やってた。享年四十二。過労で倒れた。俺が引き継いで三年目だ。

「わかってる」

ルームミラーに映る後ろの空に、自律警備ドローンの赤いランプが点滅してる。あれが来ると、荷物の中身を一つ一つスキャンされる。監査ログが溜まると、次の配送許可が下りにくくなる。

「隆、次の角を左だ。旧道を使え。ドローンは新道しか見てない」

叔父さんの声に従ってハンドルを切る。狭い道に入ると、街灯が少なくて暗い。荷台から、何かがカタカタ鳴る。

一軒目。防災部品を受け取った自治会長は、配送証明の紙を三枚も出してきた。

「これ全部にサインしろって言われてんだよ。内閣ユニットが変わるたびに様式が変わるから、念のため全部持ってきた」

俺は三枚とも書いた。叔父さんが「無駄だな」と呟く。

二軒目。フィルム写真のセットを受け取ったのは、若い女だった。玄関先で箱を開けて、中身を一つ一つ確認する。

「あの、これ、監査済みシールが剥がれてるんですけど」

俺は荷台を見た。確かに剥がれてる。システムが出した監査証明と、実物のシールが一致しない。これ、また監査が入る。

「すみません、ちょっと待ってください」

叔父さんが「隆、ダッシュボードの中だ」と言った。開けると、予備のシールが入ってる。

「それ貼っとけ。誰も見てない」

俺は貼った。女は納得して受け取った。

三軒目。精密機器。届け先は、旧市役所の裏にある小さな研究所だった。受付には誰もいない。インターホンを押すと、内線が繋がった。

「あ、配送ですか。玄関に置いといてください。監査ログはこっちで処理します」

俺は箱を置いた。配送証明のQRコードをスキャンしようとしたら、システムが「承認待ち」と表示した。

「隆、それ、今夜は承認下りないぞ」

叔父さんの声が冷たい。

「なんで」

「内閣ユニットが署名アルゴリズムの整合性チェックしてる。明日の朝まで待て」

俺は箱の横に、手書きのメモを置いた。「配送完了。承認待ち。川島隆」

バンに戻ると、叔父さんが笑ってた。

「お前、俺と同じことしてるな」

「叔父さんもやってたの?」

「毎晩な。承認なんて、次の日には誰も覚えてない」

ルームミラーに、またドローンの赤いランプが映った。今度は二機。俺はアクセルを踏んだ。

助手席で、叔父さんが古いMDプレーヤーをいじってる。エージェントなのに、なぜか実体化してる小道具だ。

「隆、このMD、お前が中学の時に貸したやつだろ。まだ持ってんのか」

「持ってないよ。それ、エージェントのバグだろ」

叔父さんは笑って、MDを消した。

バンが旧道を抜けて、大通りに出る。ドローンの音が遠ざかる。荷台はもう空っぽだ。

俺のスマホに、配送完了の通知が三件届いた。監査ログは、まだ「処理中」のまま。

「隆、今夜も無事だな」

叔父さんの声が優しい。俺は何も言わずに、センターに向かってハンドルを握った。