レンズ越しの再構築

──平成0x29A年10月10日 07:30

朝七時半。コンビニ「ミニストップ24」のレジ前で、俺は店長の篠崎さんと並んでコピー機を睨んでいた。

「また出たよ、同期エラー」

篠崎さんがため息をつく。画面には「顧客データ再同期中 0x4A2E...」という文字列が点滅している。昨夜から三度目だ。

レジ横のプリクラ機が、ピンク色の光を放ちながら待機音を鳴らしている。平成エミュの産物らしく、筐体は2000年代のデザインだが、中身は最新の顔面認証システムだ。コンビニの顧客管理と連動していて、撮影データが購買履歴と紐づく仕組みになっている。

問題は、そのプリクラ機とコピー機が同じサーバーを共有していることだった。

『健太郎、記憶補助アプリ起動してる?』

耳の奥で、姉の声が響く。近親人格エージェントの千鶴だ。享年28、五年前に過労死した。生前はシステムエンジニアで、いつも俺のミスをフォローしてくれていた。

「ああ、起動してる」

俺は小声で答えながら、スマホの記憶補助アプリを確認する。今朝のシフト開始時刻、在庫確認の手順、レジ操作のショートカット。全部千鶴が整理してくれたメモだ。

『プリクラ機の同期ログ、確認してみて。たぶんそこに原因がある』

コピー機の管理画面を開く。ログを遡ると、午前三時に大量の顔面データが流れ込んでいた。プリクラ機が深夜に勝手に起動して、過去の撮影データを再送信している。

「篠崎さん、これ見てください」

篠崎さんが画面を覗き込む。

「ああ、またか。時間貸しCPUの契約が切れかけてるんだよ。サーバー容量が足りなくて、古いデータが逆流してるんだ」

時間貸しCPU。平成エミュの奇妙な産物だ。本来なら無限に近い計算資源があるはずなのに、システムは「契約」という形式を要求する。篠崎さんは毎月、オンラインで更新手続きをしているが、今月は承認が遅れているらしい。

『健太郎、プリクラ機の電源、一回落としてみたら?』

千鶴の提案に従って、俺はプリクラ機の裏に回る。古いタイプの電源プラグだ。コンセントを抜いて、十秒数えてから差し直す。

プリクラ機が再起動音を鳴らす。待機画面に戻った。

コピー機のエラー表示が消えた。

「おお、直った」

篠崎さんが安堵の声を上げる。俺も肩の力が抜けた。

『よくやった。これで今日一日は持つはず』

千鶴の声が、少しだけ嬉しそうに聞こえる。

俺は記憶補助アプリに、今日の対処法をメモする。「プリクラ機再起動→同期エラー解消」。次に同じトラブルが起きたとき、このメモが役に立つ。

レジに戻ると、最初の客が入ってきた。おにぎりとコーヒーを買っていく。いつもの朝だ。

プリクラ機が、また待機音を鳴らし始める。ピンク色の光が、朝日に溶けていく。

『健太郎、今日も頑張ってね』

千鶴の声が、優しく背中を押してくれる。

俺は小さく頷いて、レジのバーコードリーダーを手に取った。